『水月 -すいげつ- 〜Portable〜』は、海沿いの穏やかな田舎町を舞台に、失われた記憶と前世から続く数奇な宿命を巡る物語を描く学園伝奇アドベンチャー。2008年10月30日にGNソフトウェアからPlayStation Portableで発売され、2002年にPC版が登場して以来、多くのファンを魅了し続けてきた「和風伝奇」の傑作が、追加シナリオやボイス対応、ファンディスクの内容までを網羅した決定版として携帯機に登場しました。
物語は、海と山に囲まれた長閑な町「守野市」に、記憶を失った主人公・透がやってくるところから始まります。彼は優しい叔父一家や個性豊かな少女たちに囲まれ、平穏な学園生活を送り始めますが、毎夜のように見る不気味な悪夢と、町に古くから伝わる「前世」の伝承が、彼の運命を次第に狂わせていきます。美しい夏の風景の裏側に潜むドロドロとした人間関係や、時を超えて繰り返される悲劇の連鎖を解き明かす、重厚なミステリーが本作の核心です。
システム面では、伝統的な選択肢によるシナリオ分岐を採用したアドベンチャー形式です。各ヒロインのルートでは、単なる恋愛物語に留まらない、彼女たちの出生の秘密や一族の因縁が深く掘り下げられます。特にヒロインの一人である那波(ななみ)とのエピソードは、民俗学的な要素と過激な描写が織り交ざり、多くのプレイヤーに衝撃を与えました。
PSP版独自の魅力として、PC版にはなかったキャラクターのフルボイス化(一部除く)や新規イベントCGの追加、そして過去にリリースされたミニシナリオ集『水月ファンディスク・みずかべ』の内容をそのまま収録している点が挙げられます。これにより、本編の余韻を楽しみつつ、キャラクターたちの新たな一面や壁紙データなどをいつでも堪能できる、極めてボリュームの大きなパッケージとして仕上げられています。
また、画野朗氏による透明感のある美しいキャラクターデザインと、作品の雰囲気を象徴する児島由美氏による主題歌「水月」は、今なお高い人気を誇ります。静寂の中で波の音や蝉時雨が響く情緒的な演出は、PSPの画面越しでも色褪せることなく、プレイヤーを「あの夏」の切なくも恐ろしい体験へと誘います。
『水月 -すいげつ- 〜Portable〜』は、アダルトゲームブランド「F&C FC01」から2002年に発売されたPC用ゲームを原作としています。本作は和風伝奇というジャンルの確立に大きく貢献し、輪廻転生や一族の因縁をテーマにした深遠な世界観は、後のノベルゲーム作品にも多大な影響を与えました。













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