『こんな僕が救う世界』は、EXE-CREATEが開発し、ケムコよりニンテンドー3DS向けに配信されたファンタジーRPGであり、元はフィーチャーフォン向けに展開されていた作品の移植版です。主人公は人間不信の引きこもり魔道士セイシュ。彼が軍師として戦術を駆使し、戦乱に揺れるアルコール大陸の運命を左右するという、異色の設定が導入されています。従来の勇者像とは一線を画すキャラクター設計が、物語とゲームシステムの両面に深く影響を与えています。
戦闘システムの中核を成すのは「陣形」と「戦術」の概念です。プレイヤーは毎ターン陣形を変更可能であり、前列の攻撃力を高める「突撃陣」、全体の被ダメージを軽減する「防御陣」、後列のSPを自動回復する「包囲陣」など、状況に応じた選択が求められます。さらに、キャラクターの立ち位置によって陣形効果が発動する構造が採用されており、プリセット登録による即時切替が可能です。この設計は、戦術的思考と操作性の両立を図るものであり、他のRPGには見られない独自性を備えています。
物語は、セイシュがクリステル領の慈愛に満ちた女王と出会い、軍師として活躍する過程を描いています。奴隷制度や魔道士差別、領主による搾取など、重厚な社会背景が設定されており、セイシュの知略によって戦況を打開する展開が繰り返されます。特に、敵陣営の領主を騙す策略や、数で劣る部隊が陣形を駆使して勝利する場面など、軍師という役割が物語とシステムの両面で強調されています。これにより、プレイヤーは単なる戦闘ではなく、知略による勝利を体験することが可能となっています。
加えて、サブクエストやモンスター図鑑、スキル書による育成要素など、やり込み要素も一定の水準で整備されています。ただし、育成システムは比較的シンプルに設計されており、スキルのバリエーションや敵編成に関してはやや単調な面も見受けられます。これは、元がガラケー向け作品であることに起因する仕様的制約と考えられますが、陣形システムによる戦術的深みがそれを補完する構造となっています。結果として、『こんな僕が救う世界』は、引きこもり軍師という異色の主人公像と、陣形を軸とした戦術設計によって、独自のポジションを築いた作品といえます。
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