『ヒーローバンク』は、セガが手がけたニンテンドー3DS向けのRPG作品であり、「お金」をテーマに据えた異色のバトルライフRPGとして設計されています。プレイヤーは小学5年生の主人公・豪勝カイトとなり、仮想空間で展開される格闘競技「ヒーローバトル」に参加し、借金100億円の返済を目指すという、極めてユニークな設定が導入されています。ゲーム内では「ヒーロー着(ぎ)」と呼ばれる職業モチーフのデータスーツを装着することで戦闘能力を得る構造が採用されており、バトルと経済活動が密接に結びついた設計思想が貫かれています。
本作の戦闘システムは、プロレス的な演出とテンポの良いコマンドバトルを融合させた構造で構成されており、技の発動には「おひねり」や「契約金」などの資金が必要となる仕様が導入されています。これにより、単なる体力の削り合いではなく、資金管理と戦術選択が勝敗に直結する設計が実現されています。さらに、戦闘中に観客からの応援や実況がリアルタイムで挿入される演出が加わることで、仮想空間での競技感が強調され、没入感の高い体験が提供されています。
物語構成においては、主人公が借金返済のためにヒーローバトルへ挑むという導入から始まり、やがて「マネーゴースト」や「ゴールドフォース」といった組織との対立、そして「世界の上書き」という壮大な陰謀へと発展していく構造が採用されています。この展開は、単なる少年向けの勧善懲悪ではなく、資本主義社会における価値観や倫理観への問いかけを内包しており、ゲームシステムと世界観が密接に連動した設計思想が見て取れます。特に、敵キャラクターが実在企業や公共機関とのタイアップによって構成されている点は、現実との接続性を高めるための意図的な演出といえます。
加えて、作品はゲーム単体に留まらず、漫画・アニメ・アーケードゲーム・トレーディングカードゲームなど多角的なメディア展開が行われており、セガによる新規IPとしての拡張性が強く意識されています。これらの展開は、ゲーム内の「ヒーロー着」やキャラクター設定に反映されており、クロスメディア戦略とゲーム設計が相互補完的に機能する構造となっています。結果として、『ヒーローバンク』は単なるRPG作品ではなく、メディア横断型のホビーコンテンツとして設計された点において、極めて特異な位置づけを持つタイトルといえます。
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