『夏夢夜話(なつゆめやわ)』は、不思議な絵本の世界に迷い込んだ少年の葛藤を描くファンタジック恋愛アドベンチャーゲーム。2003年08月28日にKIDからPlayStation 2で発売されました。本作は、同年にPCゲームブランドLandryから発売された同名タイトルの移植版です。主人公の少年・伶二(れいじ)は、幼馴染の少女「小鳥」と、都会から帰ってきたもう一人の幼馴染「涼子」との間に生じた溝に心を痛めていました。ある日、彼は個展の招待状に導かれて、絵本の中に描かれた幻想世界「フェルネラント」へと迷い込みます。そこは、言葉を話す動物やトランプの兵隊が暮らすメルヘンチックな世界でありながら、どこか狂気を孕んだ悪夢のような場所でした。

ゲームプレイは、テキストを読み進めながら選択肢を選んで物語を分岐させるオーソドックスなアドベンチャー形式です。本作の最大の特徴は、恋愛ゲームでありながら「異世界の住人と結ばれてはならない」という逆説的なルールにあります。フェルネラントには魅力的な少女たちが多数登場しますが、彼女たちと恋に落ちてその世界に留まることは、現実への帰還を諦める「バッドエンド」を意味します。プレイヤーは、甘美な幻想の誘惑を振り切り、現実世界で待つ小鳥か涼子のどちらか一人を選び取るという、強い意志と決断を求められます。

本作の独自性は、水無神知宏氏や田中ロミオ氏らが手掛けた、詩的で哲学的なテキストと、如月水氏・ひぐちのりえ氏による幻想的なビジュアルが生み出す独特の空気にあります。マザーグースや不思議の国のアリスをモチーフにした世界観は美しくも残酷で、登場人物たちが抱える心の傷やトラウマが、童話的なメタファーを通じて描かれます。単なる萌え要素の消費に留まらない、文学的な読み応えと少しの不気味さを併せ持った、夏の夜に見る夢のような物語が展開されます。

本作は、KIDが移植を手掛けたタイトルの中でも特に異彩を放つ作品として知られています。シナリオに参加した田中ロミオ氏は『CROSS†CHANNEL』などで知られるライターであり、本作でもその片鱗とも言える内面描写が見られます。マザーグースなどの童話は、本来残酷な側面を持っています。本作の世界観に興味を持った方は、原典となる童話集や、その残酷な解釈を扱った解説書を読むことで、フェルネラントの住人たちが象徴する意味をより深く考察することができます。

マザーグースの解説書

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