『ザルツブルグの魔女』は、魔女伝説が残る古城に閉じ込められた日本人ツアー客たちが、一人また一人と姿を消していく恐怖を描いた3Dミステリーアドベンチャー。1997年6月20日にツカモトからPlayStationで発売され、ポリゴン黎明期特有の不気味な映像表現と、王道の「クローズド・サークル(孤島・密室もの)」シナリオが融合した怪作として一部で語り継がれています。

物語の舞台は、ドイツのザルツブルグ近郊にそびえ立つ「ノイエシュタット城」。かつて魔女裁判によって処刑された城主夫人・アントアーヌの呪いが噂されるこの城に、歴史研究ツアーと称して8人の日本人が集められます。しかし、嵐によって外部との連絡が絶たれると、伝説をなぞるかのような連続殺人が発生。プレイヤーは大学生の主人公・富樫となり、疑心暗鬼に陥る仲間たちと会話を重ねながら、城内に隠されたトリックや魔女の正体を暴かなければなりません。

ゲームシステムは、キャラクターをラジコン操作で動かして3D空間を探索する、当時の『バイオハザード』等に近いスタイルを採用しています。敵との戦闘アクションはなく、あくまで手がかりを探してフラグを立てていく純粋なアドベンチャー形式ですが、視点カメラの切り替えや移動速度のもどかしさが、逆に「逃げ場のない閉塞感」を演出しています。また、選択肢によって物語が分岐するマルチエンディング方式となっており、全員生還を目指すには慎重な行動と推理が求められます。

本作の最大の特徴(あるいは語り草)となっているのが、その独特なグラフィックです。登場人物たちは3Dポリゴンで描かれていますが、テクスチャが粗く表情がほとんど読み取れないため、人間味が薄く人形のような不気味さを漂わせています。この「顔のない」キャラクターたちが無機質な動作で会話する様は、意図した演出以上にプレイヤーの不安感を煽り、結果としてサイコホラーとしての完成度(?)を高めています。

『ザルツブルグの魔女』には直接の原作小説はありませんが、作中で語られる魔女伝説は、実在した「血の伯爵夫人」ことエリザベート・バートリー(バートリ・エルジェーベト)をモチーフにしています。若さを保つために若い娘の血を浴びたとされる彼女の逸話は、吸血鬼カーミラのモデルともなり、多くのホラー作品の源流となっています。

エリザベート・バートリー