『大海信長伝・下天II』は、本能寺の変という運命の転換点を乗り越えた織田信長が、狭き日本を飛び出しアジア全域へと覇権を広げる壮大な海洋戦略シミュレーション。1997年6月6日にアイマックスからPlayStationで発売され、戦国シミュレーションの枠を超え、世界規模の貿易と海戦を描く意欲作として展開されました。

本作の舞台は1585年、信長が存命し天下統一を果たしつつある日本から始まります。プレイヤーは織田家(または後継者)を率いて、明、東南アジア、インド、そしてイスラム勢力や欧州列強が割拠する「大海」へと進出します。ゲームはリアルタイムで進行し、内政による国力増強よりも、商館建設による交易ルートの確保や、外交交渉による同盟形成が重要視されるシステムとなっています。単なる武力による領土拡大だけでなく、経済的な結びつきで勢力圏を広げていく過程は、大航海時代の荒波を乗りこなす国家経営の醍醐味を味わわせてくれます。

物語を彩るIF展開も本作の大きな魅力です。ゲーム開始から約1年後、史実では信長の盟友であった徳川家康が突如として反旗を翻し、関東一円を支配する「関東国」を樹立するという衝撃的なイベントが発生します。背後を脅かすかつての盟友と対峙しつつ、大陸では満州から台頭するヌルハチ(女真族)の騎馬軍団や、圧倒的な物量を誇る明帝国、さらには最新鋭の艦隊を擁するスペイン・ポルトガルといった世界列強と渡り合わなければなりません。

戦闘は高低差のある地形マップ上で行われるリアルタイムタクティクス形式を採用しており、鉄砲隊や大砲隊の射線を確保し、敵の布陣を崩す戦術眼が求められます。特に海戦においては、当時の日本水軍の主力であった安宅船だけでなく、西洋の技術を取り入れた巨大鉄甲船などを建造し、アジアの制海権を巡る激しい戦いが繰り広げられます。日本史の「もしも」を、世界史のスケールで描き切った硬派な一作です。

『大海信長伝・下天II』は特定の原作小説を持ちませんが、いわゆる「架空戦記」と呼ばれるジャンルの醍醐味を詰め込んだ作品です。「もし信長が世界へ打って出たら」というテーマは多くの作家によって描かれてきましたが、本作はその夢をゲームシステムとして具現化しています。

架空戦記 信長