『SIGNAL』は、過酷なモータースポーツの世界を舞台に、サーキットに身を置く男たちの生き様と恋愛模様を描き出すテキストアドベンチャーです。平凡な日常を変えるため、レーシングチーム「オングストローム」の読者ライターに応募した主人公。彼女の視点を通じて、コンクリートの照り返しやエンジンの轟音に包まれたピットの熱気、そして勝利への執念が克明に綴られます。華やかな表舞台だけでなく、レースの裏側で交錯する予期せぬトラブルや、彼らが抱える過去のトラウマといった影の部分にも容赦なく踏み込んでいく物語。
ゲームの基本構造は、日々の取材を通じてターゲットとなる人物との距離を縮めていくオーソドックスな選択肢方式です。対象となるのは天才ドライバーから、裏方であるメカニック、はてはチームのメインスポンサーまで多岐にわたる8人の男たち。150枚以上用意されたイベントスチルと、実力派声優陣による音声が過酷な日々に彩りを添えます。相手の信頼を勝ち取り、極限状態の彼らがふと見せる弱さや人間味に触れる瞬間。単なる密着取材の枠を超え、死と隣り合わせの世界で生きる者たちとの深い絆が形成されていきます。
一方で、純粋なゲームとしての遊びやすさには難を抱えているのも事実。インターフェースの不便さや、一部のルートにおいて物語の途中で画面がフリーズしてしまう致命的な不具合など、システム面での粗さが散見されます。決して手放しで万人におすすめできる洗練された完成度ではありません。しかし、そうした欠点を補って余りあるほど、モータースポーツという題材に真摯に向き合った泥臭くも熱いシナリオ構成が、一部のプレイヤーの心を深く捉えて離さない。不格好ながらも確かな熱量を放つ一作です。
モータースポーツという、女性向けゲーム市場においては極めて異例の硬派なテーマを採用した意欲作です。ただ恋愛劇を描くだけでなく、機械の放熱やタイヤの焦げる匂いまで伝わってくるような、サーキット特有の空気感をテキストで徹底的に描写。CERO:D(17才以上対象)というレーティングが示す通り、死と隣り合わせの競技に人生を懸ける大人たちの、ヒリヒリとした人間関係や愛憎を克明に浮き彫りにしました。
限定版にはデータム・ポリスターが手掛けたドラマCDや主題歌CDが同梱され、音声メディアによる世界観の補完も行われています。ゲームプログラムとしての瑕疵を多分に抱えながらも、「物語を味わう」という一点において圧倒的な情熱を放ち、今なおカルト的な支持を集め続ける特異な立ち位置を確立。不便さを乗り越えてでも見届ける価値のある、骨太な人間ドラマがそこにあります。













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