『刑事J.B.ハロルドの事件簿 〜マンハッタン・レクイエム&キス・オブ・マーダー〜』は、1980年代から続く伝説的な推理アドベンチャーの系譜を携帯機向けに最適化したミステリーアドベンチャー。2008年11月27日にfonfunからニンテンドーDSで発売されました。本作はシリーズ屈指の人気を誇る第2作『マンハッタン・レクイエム』と、その正統続編である第3作『キス・オブ・マーダー』の2篇を1本に収録した移植版にあたります。プレイヤーはリバティー・タウン署の刑事J.B.ハロルドとして、ニューヨークを舞台に発生する複雑怪奇な殺人事件の真相を解明するため、孤独な捜査へと身を投じます。
リバティー・タウンの冷たいアスファルトの上で、プレイヤーは膨大な関係者の証言を突き合わせ、アリバイの矛盾を暴く地道な捜査を積み重ねます。何十人もの容疑者と対峙し、手帳に記された相関図が複雑に絡み合っていく過程は、近年の親切なヒント機能が充実したゲームとは一線を画す、骨太な思考と忍耐を要求します。一見無関係に見える小さな証拠品が、長時間の聞き込みの末に決定的な真実へと繋がる瞬間には、捜査官としての執念が報われる重厚な没理感が伴います。
特筆すべきは、ハードボイルド小説を読み進めるかのような静謐な演出と、全編を彩るジャズの音色が醸し出す大人のための情緒です。過度なアニメーションを排し、精緻な背景とポートレートで構成された静止画主体の画面構成は、プレイヤーの想像力を刺激し、1980年代のニューヨークの喧騒と影を鮮やかに想起させます。DSのタッチパネル操作という直感的なインターフェースを得たことで、散らばった事件の断片を自らの手で拾い集める感覚がより一層研ぎ澄まされ、クラシックな名作に新たな息吹を吹き込んでいます。
刑事J.B.ハロルドが歩いた1980年代のニューヨークの空気感や、酒と煙草の香りが漂うハードボイルドな世界観は、同時代の北米文化やジャズを媒介にすることでより深く味わうことができる。物語の背景にある重層的な人間模様を読み解くための集中力を養う環境や、夜の静寂に似合うアンバーな照明器具は、狭い取調室や現場の証拠品から真実を導き出す刑事の孤独な戦いにさらなる奥行きを与える。













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