『エンブレム オブ ガンダム』は、2008年5月1日にバンダイナムコゲームスからニンテンドーDS向けに発売されたシミュレーションゲームで、開発はベック、ゲームデザインとシナリオは芝村裕吏が担当しました。『機動戦士ガンダム』から『Ζガンダム』までの宇宙世紀作品を題材に、歴史書的な視点で描かれる「ドラマチック・シミュレーションゲーム」として構成されています。
本作の最大の特徴は、アドベンチャーパートとシミュレーションパートが交互に展開される構成にあります。アドベンチャーパートでは「歴史のバトン」と呼ばれる選択肢によって視点が切り替わり、連邦・ジオン・エゥーゴ・ティターンズといった陣営ごとの立場から物語を読み進めることができます。これにより、同じ戦闘でも異なる立場からの解釈や心理描写が描かれ、原作では語られなかった裏側のドラマが補完される構成となっています。
シミュレーションパートでは「プロヴィンス型マップ」と呼ばれる大マス構成の戦場で、10機編成の部隊を駒のように動かして戦います。ユニットには個別のHPが存在せず、戦力値の比較によって損耗が決まるため、従来のターン制SLGとは異なるパズル的な戦略性が求められます。補給線の維持や再行動の発生、物資の共有管理など、独自のルールが多く、慣れるまでは難解に感じられる設計です。
また、キャラクターの育成は「バスケット」システムによって行われ、選択したバトンに応じて特定のグループに属するキャラクター全員のレベルが一括で上昇します。これにより、特定キャラだけを重点的に育てることが難しく、戦力バランスの調整がプレイヤーの戦略に大きく影響します。
演出面では、アニメの名場面を再現したカットやポリゴンムービーが挿入されるほか、芝村氏独自の文体による地の文が多用され、歴史小説的な語り口で物語が進行します。ただし、この文体や設定解釈には賛否があり、原作との乖離や冗長な表現が指摘されることもあります。
総じて本作は、従来のガンダムゲームとは一線を画す実験的な構成を持ち、宇宙世紀の戦史を「読む」ことに重きを置いた作品です。システムの独自性や演出の個性が強いため、プレイヤーを選ぶ内容ではありますが、ガンダム世界を歴史的視点で再構築した意欲作として資料的価値は高いといえるでしょう。
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