ドラゴンクエストIII、少年時代の冒険と今の僕をつなぐ物語

1988年。それは、光と影が入り混じった時代。少年だった僕は、ファミコンという小さな箱の中に、無限の宇宙を見出していた。その宇宙の中心に輝いていたのが、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』。

冷たい冬の空気に震えながら、ゲームショップの前に並んだあの日の記憶は、今も鮮やかだ。手に握りしめた小遣いの感触、希望に満ちた眼差し。そして、手にした瞬間の胸の高鳴り。全てが、永遠の記憶として、心の中に刻み込まれている。

時は流れ、僕は40代になった。現実という名の荒野を彷徨いながら、心の片隅にあの頃の熱をしまいこんでいた。砂漠のような日常、渇きを癒すオアシスを求めても、それはなかなか見つからない。

先日、埃を被った実家から、あの日の「宝物」を見つけた。それは、ドラクエIIIの攻略本。ページをめくると、そこには、熱中する少年の姿があった。隠されたアイテムを探し出しては歓喜し、次なる冒険に胸を躍らせる、あの頃の僕がいた。

そんな折、スマートフォンでドラクエIIIを久しぶりに起動した。アリアハンの町並みが画面に映し出された瞬間、懐かしい感覚がよみがえった。十字キーで勇者を動かしながら、まるで時空を超えたような感覚に包まれる。そして、その冒険の感覚に浸っていた矢先、ニュースで目にしたのが、HD-2D版『ドラゴンクエストIII』の発表だった。

HD-2D版の映像は、懐かしさと現代的な美しさを融合させたものだった。しかし、そのスタイルに対して賛否が分かれていることも知っている。批判する声の中には、「オリジナルのドット絵の素朴さが失われるのでは」という懸念や、「3D表現が冒険の没入感を妨げるかも」といった意見もある。でも僕にとっては、あの物語と冒険が新たな形で再び蘇ること自体が何より嬉しかった。

カンダタのアジトで感じた高揚感、バラモスとの死闘の緊張感、そしてゾーマとの最終決戦での絶望と希望。その一つひとつが、記憶の中に鮮やかに蘇る。そして、その記憶に新たな彩りを加えるのが、HD-2D版がもたらす未来の冒険の予感だった。

エンディングが流れる中、勇者たちの旅路を見届けながら、ふと自分の人生を振り返った。少年の頃、ゲームの中に没頭することで現実の辛さを忘れていたのかもしれない。でも、同時に、ドラクエIIIは僕に勇気と希望を与えてくれた。困難に立ち向かう心、そして最後まで諦めない強さ。それは、ゲームを通して学んだ、かけがえのない教訓だった。

40代となった今でも、人生に押しつぶされそうな時がある。けれど、あの頃の冒険を思い出すと、心が軽くなる。暗闇の中を歩く時、ドラクエIIIの光が、心の道標となってくれる。

たとえHD-2D版がオリジナルの持つ感触と完全に同じでなくても、冒険を続ける者たちの物語は不変だ。伝説は、決して終わらない。それは、僕の中で今も生き続けているから。