『狼と香辛料VR』は、2019年6月3日にSpicy TailsよりPC向けに配信され、その後Nintendo SwitchやPlayStation 4向けにも発売されたVRアニメーション。本作は、360度の仮想空間でキャラクターと同じ時間を共有し、頭や尻尾を撫でるといった干渉を通じて物語の世界へ没入できる体験型のアニメーション作品です。シリーズ累計400万部を超えるライトノベル『狼と香辛料』を題材とし、原作者である支倉凍砂氏がシナリオを、文倉十氏がキャラクターデザインを手掛けた完全書き下ろしのエピソードが描かれています。
物語の舞台は、旅の途中で激しい雨に見舞われた行商人ロレンスと賢狼ホロが雨宿りのために立ち寄った、森の中の古い水車小屋です。プレイヤーはロレンスの視点となり、焚き火を囲みながらホロと語り合う、少し不思議で温かいひとときを過ごします。従来の「見る」アニメとは異なり、目の前に存在するホロの息遣いや距離感を感じられる点が最大の特徴であり、VR機器を使用しないモードでもその世界観を十分に楽しめるよう調整されています。
本編のストーリーモードに加え、ホロと自由に触れ合える「ふれあいモード」が収録されており、特定の条件を満たすことで彼女の愛らしい反応や仕草を間近で鑑賞することが可能です。また、Nintendo Switch版ではVRゴーグルToy-Conに対応するなど、各ハードウェアの特性に合わせた操作方法が実装されており、ファンが長年夢見てきた「二次元の中に入る」という願望を叶えるための意欲的なアプローチがなされています。
原作となる『狼と香辛料』は、2006年に電撃文庫より刊行が開始された支倉凍砂によるライトノベルです。剣と魔法のファンタジー世界を舞台にしつつも、魔王討伐ではなく「経済」や「商売」をテーマにした画期的な作品として高く評価されています。行商人クラフト・ロレンスと、豊穣を司る狼の化身ホロの旅路を描いた物語は、2度のテレビアニメ化や漫画化を経て、現在も続編『狼と香辛料 Spring Log』や新シリーズ『狼と羊皮紙』が展開されており、本作VRはその世界観とキャラクターを忠実に継承した外伝的作品として位置づけられています。












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