『彼岸花』は、『弟切草』の生みの親である作家・長坂秀佳氏が原作・脚本・総監修を務めたホラーサウンドノベル。2002年12月26日にサミーからPlayStation 2で発売されました。なお、同年11月29日にはアテナからゲームボーイアドバンス版も発売されていますが、これらは同一の原作設定を共有しつつ、それぞれ異なるメーカーが独自のシナリオとシステムで制作した競作プロジェクトとなっています。物語は、京都へ向かう新幹線「のぞみ45号」の車内で偶然出会った3人の女子大生が意気投合し、彼岸花の咲き乱れる古寺「鬼谷寺(きこくじ)」を訪れたことから始まる、美しくも惨劇に満ちた恐怖の一夜を描きます。
ゲームプレイは、画面に表示されるテキストを読み進め、途中の選択肢によって物語が分岐するオーソドックスなノベル形式を採用しています。PS2版の最大の特徴は、出会った3人の主人公(有沙、菜つみ、融)それぞれの視点から物語を体験できるザッピングシステムと、その選択の組み合わせによって生じる膨大なエンディング数です。バッドエンドを含まない正規のエンディングだけで187種類も用意されており、一度到達した結末の「その先」が描かれる継続性のあるシナリオ構造により、周回プレイをするたびに新たな真実が明らかになる仕組みとなっています。
本作の独自性は、長坂秀佳氏の書き下ろしによる圧倒的なボリュームのテキストと、それを盛り上げる演出面にあります。グラフィックは実写取り込みとCGを合成した不気味なタッチで描かれ、サウンドには「ドルビープロロジックII」を採用することで、背後から忍び寄る足音や悲鳴などが立体的に響く臨場感を実現しました。一方、GBA版では画面内に潜む霊を撮影する「ゴーストショット」システムを搭載するなど、プラットフォームごとの特性を活かした恐怖のアプローチが取られており、両作品を合わせることで「彼岸花」という怪異の全貌を楽しめるメディアミックス展開がなされました。
本作の原作者である長坂秀佳氏は、『特捜最前線』などの脚本家としても知られるミステリー界の重鎮です。サウンドノベルというジャンルを確立した氏の手腕は本作でも遺憾なく発揮されており、特に叙述トリックやどんでん返しを多用した展開は読み手を翻弄します。氏の代表作である『弟切草』の小説版などを読むことで、ゲームとは異なるテキスト媒体ならではの恐怖表現や、氏が好んで描く「因習」や「洋館」といったモチーフの原点を知ることができます。













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