『ルナティックドーン テンペスト』は、シェイクスピア戯曲をモチーフにした重厚な物語を追うRPG。2001年2月8日にアートディンクからPlayStation 2で発売されました。

「自由な冒険」の代名詞としてPCゲーム界で名を馳せた『ルナティックドーン』シリーズの家庭用最新作として登場しましたが、本作は従来の「何でもできるフリーシナリオ」とは一線を画す、極めて独自性の高い進化を遂げています。プレイヤーは「ヒーロー」という名の女性主人公となり、相棒の妖精フェステと共に、動乱のアレグリア大陸を旅します。最大の変化は、シリーズの伝統だった「完全な自由」をあえて封印し、シェイクスピアの『テンペスト』や『ロミオとジュリエット』などを原案とした「運命的な大河ドラマ」を描くことに注力している点です。

システム面では、アートディンクらしい実験的な試みが数多く盛り込まれています。戦闘には「AIBS(Active Initiative Battle System)」と呼ばれる独自システムを採用。これは敵と味方が交互に攻撃するのではなく、一度「主導権(イニシアチブ)」を握った側が一方的に攻撃を続けられるという、格闘ゲームのような緊張感を持ったリアルタイム攻防です。防御に失敗すれば何もできずに敗北し、逆にテクニック次第では無傷で完封も可能という、非常に鋭利なバランスで設計されています。

また、冒険資金を稼ぐための「ジョブシステム」も独特です。単なるメニュー選択ではなく、つるはしで壁を叩く「採掘」、獲物を追い詰める「狩猟」、さらには舞台に立ってジュリエットを演じ、観客の喝采を浴びる「演劇」などがミニゲームとして用意されています。特に演劇は、コマンド入力の正確さが演技力として評価されるユニークなもので、冒険者でありながら名優として名を馳せることも可能です。従来のシリーズファンからはその変貌ぶりに驚きの声も上がりましたが、3Dで描かれる独特の無国籍ファンタジー世界と、野田順子氏ら実力派声優によるボイス演出が、本作ならではの演劇的な空気を醸成しています。

本作のストーリーや世界観は、英国の劇作家シェイクスピアの作品群(『テンペスト』『ロミオとジュリエット』『マクベス』など)をモチーフに構築されています。主人公が「ヒーロー(Hero)」という固定名であるのも、シェイクスピア作品『空騒ぎ』に登場するヒロインの名前に由来すると考えられます。ゲーム内で展開される悲劇や運命論的なストーリーラインは、一般的なファンタジーRPGとは異なる文学的な香りを漂わせており、原作を知ることで開発者の意図をより深く理解できます。

戯曲『テンペスト』(白水Uブックス ほか)

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