『LSD』は、他人の夢日記を覗き込むような支離滅裂な世界を彷徨い、論理や目的の欠落した空間で精神の深淵へと潜っていくドリームエミュレータ。1998年10月22日にアスミック・エース エンタテインメントからPlayStationで発売され、マルチメディアクリエイター・佐藤理(OSAMU SATO)氏がプロデュースした、ゲーム史における最も奇妙で不可解な「電子ドラッグ」としてカルト的な知名度を誇ります。

本作には、明確な目的やエンディング、ゲームオーバーといった概念が存在しません。プレイヤーができることは、極彩色で彩られた不条理なフィールドをただひたすらに歩き回ることだけです。京都のような日本家屋、巨大な団地、奇妙なバイオ空間など、脈絡のないマップが用意されており、壁やオブジェクトにぶつかることで別の場所へと強制的かつランダムにワープ(リンク)します。この「リンク」を繰り返すことで、夢特有の「場面が唐突に切り替わる感覚」を見事に再現しています。

フィールド上には、巨大な赤ん坊の顔、足音と共に迫りくる謎の紳士(グレイマン)、首が抜け落ちる舞妓など、生理的な嫌悪感や恐怖を煽るキャラクターが徘徊しています。しかし、彼らは攻撃してくるわけではなく、ただそこに「居る」だけです。夢から覚める(ゲーム内時間が経過するか、特定の条件を満たす)と、その日の夢の内容が「Dynamic」「Static」などの軸でグラフ化され、その傾向によって次回見る夢のテクスチャや配置が変化していきます。

また、ゲームの元ネタとなった、スタッフによる実際の「夢日記」をテキストとして読む機能も搭載されています。意味不明な文章の羅列は、ゲーム本編の映像体験と相まってプレイヤーの正気を揺さぶります。テクノやアンビエントを基調としたBGMは非常に質が高く、単なる奇ゲーとして片付けるには惜しい、高い芸術性と中毒性を秘めています。現在では中古市場で数十万円単位の価格で取引されることもあり、その希少性が本作の伝説化に拍車をかけています。

『LSD』は、開発スタッフの一人である西川宏美氏が約10年間にわたって書き溜めていた「夢日記」を原作としています。夢という個人的かつ非論理的な体験を、デジタルメディアを用いて再現・共有しようとした実験的なアートプロジェクトであり、タイトルは「Lovely Sweet Dream」等の略称とされています。

夢日記(書籍)

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