『初恋ばれんたいん』は、大人になった主人公が高校時代のアルバムを開くように、セピア色の追憶の中で甘酸っぱい青春を再び体験する恋愛育成シミュレーション。第1作となるオリジナル版は1997年7月31日にファミリーソフトからPlayStationで発売され、恋愛ゲームとしては珍しい「縦書きのメッセージウィンドウ」や、ヒロインの「後ろ姿」を多用した情緒的な演出で話題を呼びました。
物語は、社会人となった主人公が高校2年生からの2年間を回想する形式で進行します。プレイヤーは勉強や運動で自分を磨きながら、個性豊かなヒロインたちと交流を深め、卒業直前のバレンタインデーに告白されることを目指します。登場するヒロインたちは、「織田」「武田」「伊達」「真田」など、全員が戦国武将の苗字を持っているのがユニークな特徴です。特に下校イベントでは、隣を歩く彼女の背中越しに会話が進む演出が採用されており、まるで本当に並んで歩いているかのような独特の臨場感と、少し照れくさい距離感を醸し出しています。
しかし、初期のオリジナル版はパラメータ管理やフラグ立ての難易度が非常に高く、「高嶺の花」を攻略する厳しさを痛感させられるバランスでした。そこで、ユーザーの声に応える形で1998年11月5日に発売されたのが、改良版である『初恋ばれんたいん スペシャル』です。この「スペシャル」では、ゲームバランスの大幅な見直しが行われたほか、システム周りの快適性が向上。さらに、「上杉」などの新ヒロインや新規シナリオが追加され、名実ともに本作の「完全版」といえる内容に進化しました。
本作を象徴するもう一つの要素が、自分の気持ちを綴って相手に渡す「手紙システム」です。現代のようなSNSがない時代、便箋に想いを託して下駄箱に入れたり手渡したりする行為は、プレイヤーに「伝えることの難しさと大切さ」を再認識させてくれます。派手なイベントよりも、日々の会話や空気感を重視した作りが、多くのプレイヤーの心に「ありし日の初恋」を刻み込みました。
『初恋ばれんたいん』はオリジナル作品ですが、開発元のファミリーソフトは『あすか120%』シリーズなどの美少女ゲームで知られるメーカーです。本作に見られる「文通」や「下校」といった要素は、デジタルな連絡手段が普及する以前の、もどかしくも美しい青春の原風景を描き出しています。













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