『タッチdeニーハオ 筆談くん』は、ニンテンドーDSのタッチスクリーンを電子辞書やコミュニケーションデバイスとして活用する翻訳実用ソフト。2008年の北京オリンピック開催を機に高まりを見せていた中国旅行の需要を見据え、異国の地での言語の壁を「筆談」というアナログな手法で乗り越えるために構築された。ゲームとしての娯楽性はミニゲーム程度に留まり、主目的はあくまで海外渡航時における現地の人々との双方向の意思疎通に特化している。

基本操作は、複雑なキーボード入力を一切排除した直感的な手書きシステム。ユーザーが下画面に伝えたい言葉を直接書き込むと、該当する単語の候補がリストアップされる。目的の単語をタッチペンで弾けば瞬時に中国語表記へと変換され、そのままDS本体を相手に提示して意図を伝える仕組み。日中二ヶ国語の双方向入力に対応しているため、相手にもDSを渡して画面上に文字を書いてもらうという、言葉のキャッチボールが成立する。物理的なボタン操作を排し、ペンで文字を綴るという万国共通の身体的アプローチが、言語の壁を緩やかに取り払う。

ソフトウェアの内部には、旅行会話を中心とした約17000語の単語データベースが収録されている。さらに、上海の地下鉄路線図や現地の地図モード、とっさの出来事を書き留めておくフリーモードなど、旅行者の動線を補助するアシスト機能も完備。手のひらサイズのゲーム機を、旅行カバンに忍ばせる電子ガイドブックへと変貌させている。異国の地で直面する心細さを、デジタルの処理能力と手書きの温もりでサポートする、ストイックなまでに実用性を追い求めたパッケージ。

本作が市場に投入された2008年は、スマートフォンの普及前夜であり、高精度な翻訳アプリも一般的ではなかった時代。海外旅行での意思疎通は、紙の「指さし会話帳」や高額な専用の電子辞書に頼るのが主流の手段とされていた。そこに、世界的な普及台数を誇るニンテンドーDSのタッチパネルと手書き認識機能を応用し、安価で身近な「翻訳・筆談デバイス」を生み出そうとしたアプローチは、当時の携帯ゲーム機の用途拡張の歴史として興味深い側面を持つ。

現在では、専用のAI音声翻訳ガジェットやスマートフォンのカメラ翻訳機能が、瞬時に言葉の壁を突破してしまう。しかし、手で文字を書き、相手に画面を見せ合い、身振り手振りを交えながら反応を待つという、不器用ながらも体温を伴うコミュニケーションの形が本作の根底には流れていた。最先端の通信機器ではなく、子供から大人まで広く普及したゲーム機が異文化交流の架け橋として機能しようとした、ひとつの時代の確かな記録。

ポケトーク S (POCKETALK S) 双方向翻訳機

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