Article 2026/3/26
【DS】チューボーですよ! 巨匠レシピ集
game-list
『チューボーですよ! 巨匠レシピ集』は、10年以上続いたTBS系列の人気料理番組の冠を掲げながら、その看板司会者の存在をシステム側から完全に消去している。「番組で紹介された巨匠のレシピを作れる」という名目で発売された実用ソフトであるが、ゲーム内に司会者である堺正章の姿や肉声は一切収録されていない。プレイヤーは番組のテーマ曲からボーカル部分だけを抜き取った不完全なBGMを聞きながら、感情の一切こもっていない合成音声によるレシピの読み上げに従って調理を進めることになる。
当時の購入者や検証コミュニティで最大の不満点として記録されたのは、番組のハイライトである「星いくついただけますでしょうか?」という評価システムの極端な形骸化である。料理を完成させた後、プレイヤーは「コノ料理ハ星イクツデスカ?」という無機質な機械の音声に対し、自分で自分に星を付ける「自己採点」を要求される。自分で星3つのボタンを押すと、「星3ツデス」という機械声の祝福が返ってくるという、虚無に満ちた承認欲求の処理システムが稼働している。
さらに、料理を模したミニゲームや経営シミュレーションといった要素は一切存在せず、単なる電子テキストの閲覧ツールとしての機能しか有していないにもかかわらず、収録されているレシピ数は全150種類と極端に少ない。そして、「レシピをめくって適当に自己採点で星を付ける」という作業を繰り返すだけで、見習いから未来の巨匠へと無意味に昇格していくパラメーターが設定されている。料理番組のエンターテインメント性を排除し、プレイヤーに「無機質な機械声と一人芝居をする」という特異な環境を提供する仕様が、カートリッジ内に構築されている。
ニンテンドーDSの普及期には、任天堂の『しゃべる!DSお料理ナビ』のヒットに追従する形で、多数のサードパーティが電子レシピソフトを市場に投入した。発売元のアルファ・ユニットもその市場動向に乗り、有名テレビ番組のIPを利用して該当ソフトウェアを企画した。しかし、タレントの肖像権や音声使用料という物理的な開発コストを削減した結果、「番組名を冠しているのにタレントが一人も出ず、合成音声が喋るだけ」という歪な出力結果を生み出した。テレビ番組の賑やかな雰囲気を期待して購入したプレイヤーに対し、自分で自分に星を付けて機械に祝福されるというシュールレアリスムを突きつけた事実は、「DSの実用ソフトとしてパッケージングすれば売れる」という当時の資本主義的な判断基準を物質的に証明している。