Article 2026/3/26
【DS】ビズ能力DSシリーズ 話心の素
game-list
ゲーム情報
| タイトル | ビズ能力DSシリーズ 話心の素 |
|---|---|
| ジャンル | ビジネスコミュニケーション |
| パブリッシャー | コクヨ |
| 発売日 | 2007年09月13日 |
| 対応ハード | ニンテンドーDS |
| レーティング | CERO A |
| 提供形態 | 中古ショップ等で探しましょう |
| 特徴 | DS普及期に異業種から参入した実用ソフトの一つだが、発売前日の開発者逮捕により当日に回収・発売中止が決定した「回収品」として記録されている。一部の小売店で販売されてしまった在庫が現在も中古市場に出回っており、コミュニケーションを説くソフトが痴漢による不祥事で封印されたという皮肉な事実が、特異なコレクターズアイテムとしての価値を形成している。 |
『ビズ能力DSシリーズ 話心の素』は、文具メーカーであるコクヨが「人の心をつかむ話し方」を鍛えるという名目で市場に投入を試みたソフトウェアである。ビジネスシーンでの意思疎通や文章の構成力、間の取り方などを学ぶというパッケージングが施されているが、内部に構築されているのは単なる電子テキストと選択式クイズの反復である。ゲームとしての双方向性やエンターテインメント要素は一切実装されておらず、プレイヤーはニンテンドーDSの低解像度のモニターで1,450問という大量のビジネス設問を無機質に処理し続ける作業を要求される。
当時の市場においてハウツー系ソフトが乱造される中、該当タイトルもそのフォーマットに完全に準拠している。しかし、「間の取り方」や「聞き手が理解しやすい話し方」といった音声や非言語的コミュニケーションが不可欠な対人スキルを、DSのボタン操作による文字の選択肢のみで判定・訓練させようとするシステム設計には致命的な矛盾が存在する。プレイヤーは実際の対人関係の機微を学ぶのではなく、システム側が設定した「正解の選択肢」を暗記するだけの機械的な動作に終始することとなり、コミュニケーション能力の向上という本来の目的はハードウェアの制約によって形骸化している。
そして、本作をゲーム史において極めて特異な存在たらしめているのは、ソフトウェア内部の仕様ではなく、その流通における盤外の物理的事実である。発売日である2007年9月13日の前日に、本作の開発スタッフが痴漢容疑で逮捕されるという事件が発生した。「他者との円滑な意思疎通」や「魅力的な話し方」を啓蒙するソフトウェアが、開発者の他者の尊厳を物理的に侵害する行為によって、発売日当日に全品回収・販売見合わせとなる事態に発展したのである。パッケージが説くコミュニケーションの理想と、開発側の犯罪行為という現実が完全に矛盾した状態のまま、回収の網の目を潜り抜けた少数のカートリッジのみが市場に流出するという結末を迎えた。
ニンテンドーDSの市場拡大期には、『脳を鍛える大人のDSトレーニング』の成功に追従する形で、多数の非ゲーム企業が「大人向けの実用・学習ツール」という名目で市場に参入した。文具メーカーであるコクヨもその一社であり、創業100周年の新規事業として該当の「ビズシリーズ」を展開していた。しかし、「DSのソフトとしてパッケージングすれば売れる」という市場の熱狂のもと、本来は対面での実践が必要な「会話術」を無理やりテキストクイズの形式に落とし込んだ仕様は、当時の電子教材が抱えていた機能不全を物質的に示している。ゲーム性の欠落した単調なクイズソフトが、開発者の不祥事という物理的要因によって文字通り「話の種」としてクソゲー界隈に語り継がれている実態は、実用ソフトバブルが崩壊する過程の極端な症例記録である。